MyGO!!!!!は"生きている"
MyGO!!!!!において特筆すべきは、その"生"のことである。
他のバンド、例えば「結束バンド」や「放課後ティータイム」と比較すると、MyGO!!!!!は生きているのである。生命力に溢れ、活力がある。元気をもらえる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
7話を皮切りに崩壊していったMyGO!!!!!一行は10話で燈を核として、楽奈、立希、愛音を舞台に上げる。そして「壊してやる」とまで言った長崎そよをも舞台に引き上げ、MyGO!!!!!として演奏を行う。
多くの人はこのシーンを目の当たりにして、「ようやく報われた!」と救われた気持ちになるかもしれない。
しかし、このシーンの本質は演奏を行う前までのシークエンスである。このことについて、以下で補足していく。
ライブとはLiveであり、つまり生命である
そもそも、「ライブ」とはなんだろうか。
よく耳にするのはアーティストのライブである。アーティストはライブにおいて、観客の前で歌唱や演奏を披露する。
一方で、テレビを見ると画面端に「Live」という表記が見られることがある。これは「生放送」を表しており、映像を撮影すると同時にテレビで放映する。
しかし、原義に立ち返ればライブというのは「生、生命」である。
ロングマン英英辞典によれば、"Live"はいくつかの意味を持つが、そのうちの1つは"to be alive or be able to stay alive"である。つまり、「生きていること」。ライブというのは生そのものの具現化である。
迷子は出発点と到着点の間を駆け巡る
先ほど、MyGO!!!!!が生きている、という表現をした。それはどういうことなのか。
MyGO!!!!!というのはその名前の通り、「迷子」を意味する。これは燈や愛音が水族館のシーンを中心として、頻繁に繰り返すワードである。MyGO!!!!!というのは、要は「迷子」になっちゃったバンドである。では、「迷子」とはどういうことなのか。
これから述べることを想像してほしい。まず、地図上に1つの点がある。これを出発点とする。次に、地図上のその点とは異なる1つの点がある。これを到着点とする。
基本的には出発点を出発し、到着点に到達することになる。
ところが、MyGO!!!!!が出発点を出発したらどうなるだろうか?
MyGO!!!!!は「迷子」なのである。つまり、到着点にたどり着くことはできない。出発点にペン先をおいてそこからペンを走らせたあと、ぐちゃぐちゃと軌跡を描いて、到着点とは関係のない無秩序な運動の跡だけが残る。「迷子」とは恐らくそのような状態である。
到着点、すなわち死
先ほど説明した出発点と到達点の話を、生命とのアナロジーとして捉えてみる。
出発点というのは「誕生」である。一方で、到着点というのは「死」である。生命は誕生と同時に"生"の旅に出発し、"生"の旅を終えて到着点に到着することで死を迎える、ということになる。
これを考えると到着点に着いたバンドは、それは「バンドの死」として捉えることができる。
バンドも1つの生命である。バンドにも誕生と死がある。
最初は中核のメンバーが固まり始める。誕生である。徐々にメンバーを増やし、結束し、安定化する。これが到着、すなわち死である。
生きているバンド
これらを踏まえると、MyGO!!!!!は「生きているバンド」ということになる。
生命力に溢れ、活力があるバンド。
10話ではステージ上でバンドメンバーが召集されてゲリラ的にバンドを形作る。燈が立つと、楽奈が立ち、立希を呼び、愛音を呼び込む。そして長崎そよを引き上げる。
MyGO!!!!!でないバンドからMyGO!!!!!を観客の前で結成してしまうというのが新しさである。
このバンドの誕生、そして生の旅が行われる過程が、全てステージ上で行われたことが、まさにMyGO!!!!!のLive(生、生命)を映し出しており、観客からすればまさしく"ライブ"なのである。
その一方で、例えば結束バンドや放課後ティータイムは「死んでいるバンド」である。それらのアニメの基本的な構成は、アニメの前半でバンドメンバーが集まる。中盤から後半にかけて、メンバー間でのやりとりや、ライブが行われる。
これらのバンドはメンバーが集まった時点で既に、到着点に到達してしまっている。その後に行われるやりとりやライブは、もはや死後の永遠の世界で行われる娯楽の1つに過ぎない。
これまでの話から、MyGO!!!!!は旧来の王道的なバンドアニメ作品のカウンター的な立ち位置を占めることがわかるだろう。MyGO!!!!!はバンドアニメ界に革命をもたらしたといっても過言ではない。
これを読んだ人の中には言いたいことがある人ももちろんいるだろう。たとえば、MyGO!!!!!も10話で結成したのだから「死んでいる」だろうという人はいると思う。少なくともその点に関しては次の章に補足したい。
1つに見えて、バラバラ
その視線の先
MyGO!!!!!は10話を乗り越えて完全体、1つになったと解釈する人は多いだろう。実際、バンドとして演奏を行うためのハードルを1つ乗り越えた場面ではある。
しかし、なぜ1つになったと解釈できるのだろうか?
長崎そよがステージ上に上がったとき、メンバーの5人は円をつくり、みんなで中心を向いた。感動的なシーンに映るだろう。長崎そよは泣いている。ようやく1つにまとまった......。
本当にそうだろうか?
一般的なバンドがライブで演奏するシーンを思い出して欲しい。
基本的に、全員体の正面は観客の方向を向いている。つまり、みんなが1つの方向を向いている。これは、メンバーが1つにまとまっている状態と言えるだろう。メンバーはそれぞれ、観客によりよいパフォーマンスを見せようという考えで一致しているはずだ。
そう考えると、MyGO!!!!!はどうだろうか。実はこのシーンでは、誰も体を同じ方向に向けていないと解釈することも可能なのである。
このシーンは、一体感を演出しているように見えて、実は誰も同じ方向を向いていない、すなわちそれぞれが全く別の目的に向かっているのである。
例えば楽奈は1人、涙を流していない。楽奈視点の画角からは燈の方を向いているように見える。「やっぱりおもしれー女」とでも思っているのだろうか。
愛音は観客の方を一瞥しているシーンがある。「私のこと見てくれてるかなぁ」と考えているかもしれない。
長崎そよは立希と目を合わせたり、燈の方に目を向ける。CRYCHICである。
もちろん、互いにアイコンタクトを取っている場面もある。演奏をまとめるということ、まとめなければいけないということについては一致しているのだろう。一方でこれらのことは、MyGO!!!!!が決して1つにまとまってはいない、結束はしていないことを示している。つまり、まだ「迷子」なのだ。活性化エネルギーが高く、いつ分解してもおかしくない。メンバーがメンバーとしてロバストではなく、メンバーの間に揺らぎがある。
MyGO!!!!!が10話以降も「生きている」、すなわち「迷子」であり続けていること、あり続けるであろうこと。
このことについて、次の項でさらに補足していく。
祥子の存在
13話ではAve Mujicaという新たなバンドの存在が明らかになった。
「全てをむき出しにする」MyGO!!!!!とは対照的に、「全てを覆い隠す」バンドという立ち位置である。
祥子というのは、Ave Mujicaのメンバーの1人である。一方でかつて祥子はCRYCHICの中核を担ったメンバーである。
彼女がAve Mujicaとして活動することになれば、かつてのCRYCHICのメンバーは、祥子がAve Mujicaとしてバンドをしていることに気づくことは間違いない。特に「CRYCHICのことを一生忘れない」と言い放った長崎そよはもちろん、それに同意した高松燈は、そのことを知れば、MyGO!!!!!の中での言動に影響が出てくるだろう。
そうなれば、祥子の存在を巡り、またMyGO!!!!!のメンバーはバラバラの方向に進んでいく。すなわち「迷子」になっていくことが予想される。
Ave Mujicaは"死んでいる"
これまでMyGO!!!!!が「迷子」であり、「生きているバンド」であること、今後もそうあり続けるであろうことについて述べてきた。そして、それはこれまでの王道的なバンドアニメのテンプレート化された構成に対するカウンター的な立ち位置を占めることについても述べた。
すると、Ave Mujicaはどうだろうか。Ave Mujicaは先ほど述べた通り、「全てを覆い隠すバンド」である。これはMyGO!!!!!と対照的である。これまで述べてきたことに照らし合わせると、Ave Mujicaは「死んでいるバンド」ということになる。
実際、Ave Mujicaは祥子が自ら掛け合って集めたメンバーによって結成したバンドである。
Ave Mujicaは13話の時点で始めから、到達している。
つまり、「死んでいる」のである。
これは結局のところ、旧来的なアニメ内のテンプレートなバンドでしかない。そう考えると、Ave MujicaにはMyGO!!!!!に感じた新しさ、革命的な要素は恐らく存在しない。そういうわけで、Ave Mujicaという存在に私は不安を感じるところである。
彼女らがどのような姿を見せてくれるのか、不安な気持ちではあるが、(恐らく)祥子の救済という話が展開される上で、その過程で何か新しい展開があるのではないかという期待もある。
いずれにせよ、Ave Mujica編がアニメ化されるということで、楽しみなところではある。
以上の画像はバンドリちゃんねる☆『詩超絆(アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」10話 挿入歌)』から引用しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。