東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系に合格した。

以前の記事で、院試の勉強があるという話をしましたが、結果が出まして。

この度東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系(長い)に合格しました。

その体験記を書いてみようと思います。

東大院への進学は珍しくないと思うのですが、ここの合格体験記とかは少なかった(なかった?)ので需要はそれなりにあるのかなと。

 

Notionにメモ的にまとめていたものを、軽く編集した形でブログ記事とします。受験者サンプルの1つとして参考にしてください。

 

プロフィール

所属:地方薬

受験:同大学院、東大院(共に合格)

詳細な背景とかは、最初に体験記として書こうとした記事が想定より文量が多く、エッセイ的になってしまった記事があって、後ほどそちらで投稿しようと思います。気になった方はそちらから。院試対策のために記事を読む人にはあまり必要ないと思います。

 

研究室選びについて

研究室の選び方については多くの人が記事を書いていると思うので、参考程度に。

11月下旬くらいから研究室を探していたと思います。

基本的には研究室HPや「日本の研究」といったサイトを活用しました。「日本の研究」では特に研究費が参考になります。

考えるべき点としては、どんな研究をしているか。メンバーはどれくらいいるか。誰がいるか(博士学生はどれだけいるか)。お金はどれくらいあるか。直近で論文を出しているか。学生が論文を出せるか。研究設備は整っているか。生物系ならどういったモデル動物を使用しているか。アクセスがいいか、など。

いろんな視点から検討してみるとよいです。

 

研究室見学について

最終的に志望した研究室の見学が4月末だったので、試験の対策はそれから始めた。かなり遅い方だと思う。その他の研究室見学は4件ほど行きました。一番早いところは、年末にアポイントを取って、2月の頭に行きました。アポイントは最低でも2週間前くらいがいいと思います。

 

受験前の学習状況について

弊学薬学部は浅く広くという授業展開をとっています。教養課程では物理や数学、専門科目では有機化学、物理化学、生化学、生物(生命科学)。また、薬理学、薬剤学などの薬に関連する科目を授業でとってました。実際には有機化学、生化学が中心でした。

講義では『Essential細胞生物学』(南江堂)という教養および医歯薬系向けの生物の教科書をつかってました。ただ、講義では中途半端で、たとえば細胞分裂とかガンの章なんかは取り扱っていない。自分で教科書を読むこともあったが、決して身についているわけではなく、大学の期末試験で勉強したあっさい知識だけがある状態。

加えて、受験にはTOEICTOEFLの成績が必要だったが、それに向けた学習は全くしたことがなかった。TOEFL itpは授業で受けさせられた。

受験に向けた学習について

受験前に立てた学習計画(参考)(実現できなかった)
英語スコア

当初東京大学新領域のメディカル情報生命を受験するつもりでした。当時は受験要項にTOEICがあったので、かなり早い段階で準備できました。結局メディカル情報生命はTOEFL ITPになっていました。2023/02/26のTOEICを受験しましたが、そのときのTOEICスコアは600。勉強してなかったとはいえ驚愕でした。授業で受けたTOEFL itpは530とかだったのでもうちょい高いかと思ってました。

5月に受け直したんですけど、学習コンテンツに課金して1ヶ月くらい勉強しました。リスニングが酷かったのでリスニングに集中して、最終的に50点上げました。筆記が5点下がって最終スコアは645点で、泣きながら提出しました。

募集要項をよくよく見てみると、TOEICは募集に必要とのことで、筆記試験とかの点数とは扱いが別であった。今となってはそもそも点数として使われることはないのではと思っています。スコア出たときは同期が720点とかで死ぬほど焦ってた。

TOEFLでもいいらしいですが、安いし試行回数も増やせるのでTOEICをおすすめします。

 

筆記対策について

勉強は過去問主体。というのも、過去問は8年分あったが、同じようなことを繰り返し問われていたので、それを落とさなければ不合格にはならないだろうという算段だった。過去問研究が最も重要であることは強調しておきたい。

しかし、自分の場合、基礎が固まっていなかった。最初はほとんど解けなかった。過去問研究で解ける部分もあるが、ごく基本的な知識が前提として要求されていた。当然だけど。講義で使用していたEssential細胞生物学は分量が多く、とてもじゃないけど、それを読む労力をかけられなかった。

そこで、『理系総合のための生命科学』(羊土社)で基礎固めを行うこととした。5月中旬くらいからこれを読みながら過去問解いてました。

www.yodosha.co.jp

ここを受験するという話になったときに、メールで連絡して、見学先の研究室の先輩に過去問の出題者の先生を洗い出してもらった(めちゃくちゃ丁寧にエクセルでまとめてくれたのでめちゃくちゃ助かった)のだが、出題者の先生の多くがこの教科書の編集に携わっていると判明。これほど効率的な教科書はない。とりあえずこの教科書を一通り読むこととした。分量も少なく、簡潔にまとまっているので、結果的にこちらで学習したのは正解だった。内容的にも合格ラインの知識を網羅するには十分かと思う。同期は理学部の方も併願するとのことでもう少し細かい知識を補完するために『Essential細胞生物学』を読んで学習していたが、これだけで対応できたということだった。基本的な内容が網羅されていれば何でもよい。

 

www.nankodo.co.jp

ただ過去問を解いてると明らかに知らない話が出てくる。そういうときは『細胞の分子生物学』(ニュートンプレス)(以下、Cellと呼称)とネットを活用した。文章で説明が必要な問題とかだとCellで読んだ方がいいかもです。文章の書き方も参考になるので。ただ、一例としてあげると過去問で取り上げられている、脂質ラフトの説明とかは微妙だった。脂質ラフトの説明問題を出題した、佐藤健先生の著書である『入門 生化学』(裳華房)に詳しい説明があったので、そちらを参考にされるとよいと思います。

脂質ラフトについて今後問われるかはわかりませんが、要はCellだけでは解決しないことが多かったので、いろんな書籍を見比べてみるとよいということです。

www.nankodo.co.jp

www.kinokuniya.co.jp

私は結局使いませんでしたが『生化学・分子生物学演習』(東京化学同人)も役に立つと思います。過去、表面プラズモン共鳴法(SPR)という実験手法や原理についての説明を求められる問題が何度か出題されています。SPR、マジで1ミリも聞いたことがなかった。Cellには説明がないけど、この演習書では出題がありました。

また、過去問ではSPRと一緒に等温滴定型カロリメトリーについても出題されていました。等温滴定型カロリメトリー、マジで1ミリも聞いたことがなかった。生命科学研究において、こういった物理化学的な実験手法を用いることがあるため、それなりに出題されます。これらについては「高分子学会」のHPや、『生化学の論理: 物理化学の視点』(共立出版)が役に立ちます。後者は上記2つ以外にもNMR(確か)やFRETなんかも詳しく説明があるので参考になると思います。

www.tkd-pbl.com

www.spsj.or.jp

www.spsj.or.jp

www.kyoritsu-pub.co.jp

以上、過去問研究時に参考にしたサイト、書籍を提示してきました。これらについては、最初から知っていたわけではなく、図書館でペラペラめくっていたら見つけました。とりあえず手元で調べて、よい解説がなければ自分の脚で探すのが一番です。が、内容的には過去問で十分であることに変わりはない。過去問で出題されたテーマについて、上記の手段で知識をつけることを繰り返すのがよいのかなと。

 

勉強時間として、実はあまり多くない。5月から勉強を始めたものの、6月頭に学会があったり、論文紹介や研究まとめ報告の資料作りに追われたりで5, 6月は勉強時間は取れなかったし、7月中旬からラボの院試休みをもらったが、最初の1週間は怠慢で全く勉強しなかったし、その次の週は毎日2時間から4時間くらい。そのあとは過去問消化して終わった。過去問2週とかも別にしてない。勉強を始めるのに、遅いということはないと思います。

 

選択問題について

私は「化学・生化学」「生物学」の中で解けそうなものをピックアップして解いてました。3問分解ければいいので、何年分か解いてどの年も3問分解ければ十分と思います。私はだいたい5問分くらい解いてました。「生物学」はホルモンとか細胞内輸送とかが頻出なので、それが来たら解けるようにしておく、みたいな考え方。植物とか人類学っぽい問題とか、細胞分裂とか細胞骨格の問題とかは全然知らないことばかりなので、それらが出題された年度は解くのが難しかった。ただ、多くの場合は基本的な知識があればある程度考えて解けるみたいな印象がありました。

一方で「化学・生化学」の問題は、計算があってか取っつきにくさもありますが、結構簡単です。いくつかの式を知っていれば解けました(対策は特にしておらず、学部で受けた授業スライドを少し読み直した程度)。

 

本番、筆記試験

さて、本番の試験内容に触れていきます。本番は「化学・生化学」から3問の出題でその3問を解きました。2023年度はこの分野がクッッッッソ簡単で、マジで全部教科書に載ってるような問題でした。アミノ酸とかタンパク質とか。エネルギー計算とか。Lambert-beer則とか。ちなみにアミノ酸は構造含めて必須知識です。ほんとによく出ます。

自分は生命科学系の研究室志望で、かつ薬学部ですが、一番得意な科目は物理化学でした(覚えるのがとにかく苦手なので相対的に)。そのため、光やエネルギーの話題が出ると結構都合がよかった。薬学部の人は生化学や有機が出来る人が多い(気がする)ので結構自分は珍しい側だと思います。「生物学」は難しそうでした。同期は「化学・生化学」から2問、「生物学」から1問選択したみたいですが、結構大変だったらしい。ただ、あとになって考えてみると、頑張れば「生物学」も6割くらいは解けたかも知れないとも思う。「物理学」もパッと見簡単そうでした。「身体運動科学」?とかを解いてる人が結構周りにいましたが、文章量が多くて大変そうでした。今年は「化学・生化学」を選んだ人は有利だったんじゃないか。

とはいいつつ、正答率は体感6-7割くらい。解き終わったあとにいろいろ考えるとあれ違うやんけ!とか、見直しをして最後問題の読み間違えに気付き直すも時間が足りず焦って間違える、エンタルピー計算どうすんだっけ?みたいなことがあったので、簡単とはいいつつも思ったより点は取れてないかも。

想定では、(過去問研究で解ける部分で50%)+(考えれば解ける部分で25%)、の合計75%解ければ確実ラインと思っていたので、受験後はまぁ流石に受かりはするだろみたいな気持ちでした。50後半から60取れてれば最低ラインかな~くらいの認識でした。

「化学・生化学」は過去問見ても難易度が上がりきらないっていう印象だったので、これから勉強を始める人には対策することをオススメしておきます。

 

口述試験について

8/22、総合文化研究科のHPで受験番号とともに、口述試験対象者が発表されました。口述試験はzoomで行うということで、自分の番号を確認したあと、メールで送られてきたzoomの接続確認の日程などのpdfを確認。接続確認については8/23に、本番は8/24。口述試験の期間が8/24-8/29にあることは予め知らされており、いつになるかわからない状況でした、全て8/22の発表後に知らされました。

自分としては8/25-8/27で開催される『Animelo Summer Live 2023』に参加する予定があったので、それと被るかどうかで気が気ではなかったのですが、口述試験は8/24に行われたので無事でした。研究室見学のとき、M1の先輩に聞いたところ、前年度も同じような日程だったので、基本的には8/24で、上手く予定が合わない場合にその後の日程が用意されているのではないかと思います。

 

内容については掲載を禁じられているのでなにも言えないです。すいません。

院試の面接でよく問われそうなことについては、解答を用意しておくといいと思います。あとは、研究室見学に行って、直接先輩に聞いてみるとより詳細な回答を得られると思います。他の研究室の先生方がいっぱいzoomに入っているので緊張するとは思いますが、どもってもちゃんと受け答えできれば大丈夫だと思います。なんなら、「面接は本当にラボに入れても大丈夫な人間かどうかの確認」って、うちのラボのジョッシュも言ってたので、気負う必要はないと思います。

 

試験後の所感

9/4の正午に総合文化研究科のHPで番号が張り出されまして、合格を確認。即座に関係各所に連絡。学部同期一番仲のいい友だちに一番先に連絡した気がする。

筆記試験では、受験番号を数えると81人とか受けてた。口述試験の段階で、64人残ってました。そもそも筆記試験会場に来てなかった人も何人かいたが、落とされた人間全体と比較するとわずかで、まぁまぁの割合が筆記試験で落とされたっぽい。定員は40人だが、確認できる範囲内では2020-2022年で52人合格しており、2023年は57人合格した。

点数的に絞りきれなかったのかなぁと。自分の推測としては、筆記試験の点数帯にはボリュームゾーンがあり、その集団から点数的に離れなければ合格ラインなのではと考えています。

 

まとめ

体験記で書ける範囲内では以上の内容になります。来年以降受験される方の参考になればと思います。研究室見学と過去問が大事です。

受験するつもりがなかったけど、このサイトの記事を偶然読んだ方がいたら、受験を考えてみるとよいかもしれません。生命環境科学系、調べてみると、かなり面白いことを研究している先生方がたくさんいらっしゃいます。(入試説明会で初めて知った。)理学研究科ではなく総合文化研究科ならでは、という感じです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。